無視し続けると何が起きるか
最初に、脅かすためではなく地図として、放置した場合の段階を示します。今どこにいるか分かれば、まだ引き返せることも分かるからです。
| 段階 | 起きること | まだできること |
|---|---|---|
| 滞納〜数週間 | 電話・SMS・ハガキでの案内 | 電話1本+入金で通常に戻れる |
| 1〜2か月 | 督促状・催告書が届く。信用情報に記録が残り始める | 分割の相談・リスケ交渉 |
| 2〜3か月 | 期限の利益の喪失=分割で払う権利を失い、残額の一括請求へ | 債務整理で止められる |
| その後 | 裁判所からの支払督促・訴状→給料の差し押さえへ | それでも打つ手はある→差し押さえ前にできること |
見てのとおり、電話の段階はいちばん軽い段階です。ここで「連絡が取れる人」でいることが、後ろの段階へ進ませない最大の防御になります。
かけてきたのは誰か——3つの相手で対応が変わる
台本に入る前に、1つだけ確認することがあります。電話をかけてきたのが誰なのかです。
ここを飛ばして「督促の電話の受け答え」を覚えても、相手によっては正しい対応が真逆になります。とくに②のケースで①と同じ答え方をすると、取り返しがつかないことがあります。
① 貸金業者ほんたい——自分が借りた先からの電話
カード会社や消費者金融など、実際に借りた覚えのある社名を名乗った場合です。督促の電話の大半はこれで、この後の台本がそのまま使えます。
この相手は、あなたに払い続けてほしいと思っています。回収を外部に出すとコストがかかるからです。だから交渉の余地が最も大きい。「いつ、いくらなら払えるか」を自分から出せば、たいてい話は前に進みます。
② 債権回収会社(サービサー)——債権が移っている
社名の末尾が「◯◯債権回収株式会社」になっていたら、こちらです。聞いたことのない会社名なので詐欺かと思う人が多いのですが、これは法務大臣の許可を受けた正規の会社です。借金が回収専門の会社に譲渡されたか、回収を委託されたことを意味します。
正規かどうかは法務省のサイトで許可業者の一覧が公開されているので、社名で確認できます。許可番号を名乗らない、一覧に無い、という場合は別の問題です。
この相手の特徴は2つあります。
- 一括請求が基本。すでに期限の利益を失った後の債権を扱うため、分割の相談は①より通りにくい
- ただし大幅な減額和解に応じることがある。安く買い取った債権なら、一部でも回収できれば利益になるからです
そしてここが最も重要な点です。サービサーが扱う債権は、古いものが多い。数年前に放置したまま忘れていた借金が、突然この形で戻ってくる。つまり消滅時効が完成している可能性が、3つの中で最も高い相手だということです。
だからこの電話に対しては、その場で金額の話をしないでください。「確認して折り返します」で切って、まず時効の条件を確認する。順番を逆にすると、後述の落とし穴に落ちます。
③「裁判所」「法務省」を名乗る電話——これは詐欺です
覚えておいてください。裁判所は電話をかけてきません。
裁判所からの通知は、支払督促にせよ訴状にせよ、必ず書面で、特別送達という郵便で届きます。受け取りにサインが要る郵便です。電話で「訴訟になります」「今日中に連絡がなければ」と急かしてくるのは、それだけで偽物の証拠です。
この電話に対しては、交渉も反論も要りません。何も答えずに切ってください。とくに氏名・住所・口座番号は絶対に伝えないこと。相手はあなたの情報を持っていない状態で、かまをかけている場合があります。
不安なら、電話で言われた番号にはかけ直さず、自分で調べた番号に問い合わせてください。実在する裁判所の名前を使うのが常套手段なので、番号だけが偽物というパターンがあります。
迷ったときの共通ルール
3つのどれか分からないときは、この一言で足ります。
「恐れ入ります、御社名と、担当者のお名前をフルネームでお願いします。折り返しますので、代表番号もお願いします」
正規の業者なら、すべて答えます。答えを渋る、はぐらかす、「今すぐでないと困る」と急かす——このどれかが出たら、③として扱ってかまいません。
出る前の30秒準備
着信にその場で出る必要はありません。かけ直しで十分です。かけ直す前に、この3つだけ手元に用意してください。
- メモとペン:相手の会社名・担当者名・要求された金額・期日を書き取る
- 今月・来月に本当に払える金額:見栄を張らない数字。0円なら0円でいい
- この台本:スマホでこのページを開いたままで大丈夫です
通話の録音もしてかまいません(自分の通話の録音は違法ではありません)。「言った・言わない」からあなたを守ります。
【台本全文】督促電話の受け答え
そのまま読み上げられるように書きます。太字があなたのセリフです。
① 最初の10秒——相手を確認する
相手「◯◯カードの△△と申します。お支払いの件でお電話しました」
「恐れ入ります、御社名とお名前、ご用件をもう一度お願いします。メモを取ります」
これだけで、電話の主導権は半分あなたに戻ります。事務的にメモを取る姿勢は「誠実に対応する債務者」の合図でもあります。
② 現状を一文で伝える
「お支払いの意思はあります。ただ、今月は◯◯(収入が減った・出費が重なった)の事情で、期日どおりのお支払いが難しい状況です」
理由は一文でいい。詳しく話しすぎる必要も、嘘の理由を作る必要もありません。
③ 払える日と金額を、自分から言う
「◯月◯日に、◯円であればお支払いできます。それでお願いできますか」
ここが台本の心臓です。相手に「いつ払えるんですか」と言わせる前に、自分から具体的な日付と金額を出す。金額は小さくても、守れる数字にしてください。
④ 無理な要求には、この返しで
相手「一括でお願いできませんか」「もっと早くなりませんか」
「申し訳ありませんが、それはお約束できません。確実にお支払いできるのは、先ほどの日付と金額です」
できない約束を断るのは、不誠実ではありません。守れない約束をして破る方が、はるかに信頼を失います。
⑤ 終わり方
「では◯月◯日に◯円、お支払いします。本日ご対応いただいた内容をメモしました。ありがとうございます」
約束を復唱して切る。これで督促の電話は「事務連絡」として終わります。
台本の相手別・差分
前章の台本は①の貸金業者を想定しています。②③のときだけ、次のように変えてください。
②サービサーが相手のとき
③の「払える日と金額を、自分から言う」は使いません。代わりにこう言います。
「内容を確認したいので、契約の内容と、最後の入金がいつになっているかを書面でお送りいただけますか」
最後の入金日は、時効の起算点を判断するための情報です。書面で残してもらうことに意味があります。そのうえで5年以上経っていれば、時効援用という選択肢が出てきます。
ここで「では1万円だけ」と言ってしまうと、その瞬間に債務を認めたことになり、時効の主張ができなくなります。善意で払おうとした人ほど、この落とし穴に落ちます。
③詐欺が疑われるとき
台本は使いません。何も答えず切る。それだけです。「違います」「借りていません」と否定するのも、あなたが実在することを教えてしまうので避けてください。
身に覚えのない請求だったとき
②の正規のサービサーからでも、身に覚えがない場合があります。数年前の少額の借金を忘れている、あるいは名寄せの誤りです。この場合もその場で認めず、書面を求めてください。「確認しますので、契約内容を書面でお送りください」で十分です。
言ってはいけない一言
- ⚠️ 最重要:5年以上放置した借金で「払います」と言うこと。長期間放置した借金は消滅時効の可能性がありますが、支払いを認める発言(債務の承認)でその権利を失うことがあります。古い借金の督促だけは、返事の前に時効援用の記事を必ず確認してください。
- 守れない約束の乱発:「来週払います」を繰り返して破ると、交渉の余地が消えていきます。
- 嘘の理由:「入院していて」等の作り話は、辻褄が合わなくなった時にすべてを崩します。事情は正直に、ただし一文で。
- 感情的な反論・電話の途中で切る:担当者は記録を残しています。「話にならない債務者」の記録は、後の交渉すべてに不利に働きます。
状況別・使える一言集
- 全く払えない:「今月のお支払いは難しい状況です。生活の立て直しを含めて、解決方法を専門家に相談しています」——相談予定でもこう言ってかまいません。実際に今夜これだけから始めてください。
- 少しなら払える:「全額は難しいのですが、◯円であれば◯日にお支払いできます」——一部入金は誠意の記録になります。
- 複数社から借りている:各社に同じ台本で対応しつつ、多重債務の記事へ。1社ずつの電話対応で解決できる段階を超えている可能性があります。
- 体調を崩して働けない:「体調不良で収入が途絶えており、公的な支援の手続きを進めています」——実際に生活保護・緊急小口資金という正規の道があります。
家族が出てしまった・職場にかかってきた
台本より先に、この場面で困っている人が多い。順に書きます。
家族が電話に出てしまった
まず、業者は本人以外に借金の内容を伝えることを禁じられています。貸金業法21条は、債務者以外の第三者に債務の存在を明らかにする行為を取り立ての制限として定めています。だから通常、家族が出ても「本人にお伝えください」以上のことは言いません。
とはいえ、会社名を名乗られた時点で察してしまう家族もいます。すでに知られてしまった場合は、隠し続けるより打ち明ける台本を先に読んでください。電話に怯えながら隠し通すコストは、想像より高いです。
まだ知られたくない段階なら、現実的な手は3つです。
- 着信を自分の携帯に一本化する。登録住所と電話番号を業者に変更届けする。固定電話を登録したままにしている人が多い
- 折り返しは外から。着信にその場で出る義務はありません
- そもそも電話を止める。弁護士に依頼すれば受任通知の到達をもって直接の督促が止まります。これが最も確実です
職場にかかってきた
正当な理由なく勤務先に電話をかけることは、貸金業法で禁止されています。ただし「本人の携帯に何度かけても連絡が取れない」場合は正当な理由と評価されうるため、実務では起こります。
つまり職場への電話は、本人と連絡が取れないことの結果であることが多い。逆に言えば、自分の携帯で連絡が取れる状態を作れば止まります。
それでも執拗に続く場合は、記録を取ったうえで金融庁の金融サービス利用者相談室(0570-016811)に相談できます。日時・会社名・担当者名・内容をメモしておいてください。
「同僚に借金がバレたか」が不安なとき
業者は職場でも借金の内容を言えません。名乗るのは会社名だけです。とはいえ消費者金融名を名乗られれば察しはつくため、不安になるのは当然です。職場に知られずに整理する方法に、この点は詳しく書いています。
それ、違法な取り立てかもしれません
貸金業法は、取り立ての方法を細かく制限しています。次のような行為は登録業者であっても禁止です。
- 正当な理由のない午後9時〜午前8時の電話・訪問
- 勤務先への執拗な電話・訪問
- 玄関への張り紙など、借金を第三者に知らせる行為
- 他社から借りて返せという要求
該当する場合は、金融庁の金融サービス利用者相談室(0570-016811)や警察に相談できます。そして、そもそも登録のない業者(ヤミ金)の取り立ては存在自体が違法です。1円も返す義務がないケースもあるため、ヤミ金の記事を見たうえで、ためらわず警察・弁護士へ。
電話を今日で終わらせる方法
台本で1〜2回はしのげます。でも、毎月同じ電話が来る状態は、もう「電話のかけ方」の問題ではなく「返済計画」の問題です。
正直な線引きをします。数日の遅れが1回だけなら、専門家はまだ必要ありません。台本で対応して、入金すれば終わりです。一方で——
- 滞納が3か月に近い・一括請求の予告が来た
- 複数社への返済で、返しても元金が減らない
- 電話のために生活や睡眠が壊れ始めている
どれかに当てはまるなら、弁護士・司法書士への相談を勧めます。依頼すると受任通知が届いた時点で、業者からあなたへの直接の督促は貸金業法で禁止されます。電話が鳴らない朝は、想像よりずっと早く取り戻せます。
督促の電話が鳴らない生活は、取り戻せます。相談だけなら無料・匿名です。
よくある質問
- 貸金業法(e-Gov法令検索・取立て行為の規制=第21条)→ https://laws.e-gov.go.jp/
- 金融庁「金融サービス利用者相談室」→ https://www.fsa.go.jp/soudan/
- 日本貸金業協会「貸金業相談・紛争解決センター」→ https://www.j-fsa.or.jp/
- 法テラス(日本司法支援センター)→ https://www.houterasu.or.jp/