滞納しやすい税金・保険料の種類
「税金を滞納している」という状況は、思っている以上に多くの人が経験しています。特に滞納しやすいのは以下の種類です。
- 住民税:普通徴収(自分で納める)の人は特に注意
- 国民健康保険料:フリーランス・退職後に未納になりやすい
- 国民年金保険料:若年層・低収入者の未納が多い
- 所得税・消費税:確定申告後に一括納付できず滞納するケース
- 固定資産税:不動産を持つ個人・自営業者
これらは「払わなくても何もされない」と思っている人が多いですが、実際には段階的かつ強制的な手続きが待っています。
滞納すると何が起きるか
税金を滞納したときの流れは、税目によって多少異なりますが、大まかには以下のように進みます。
延滞税・延滞金の怖さ
税金を滞納すると、元の税額に加えて延滞税(国税)または延滞金(地方税)が上乗せされます。
- 納期限翌日〜2ヶ月:年約2.4%(特例基準割合による)
- 2ヶ月超:年約8.7%(最大14.6%になるケースも)
- 長期化すると元本の数十%が上乗せされることも
住民税50万円を1年滞納すると、延滞金だけで4〜7万円以上になることがあります。早めの対処が損を防ぐ唯一の方法です。
差し押さえを止める2つの猶予制度
ここがこの記事の中心です。税金の滞納には、差し押さえを止めるための正式な制度があります。窓口で「分割にしてください」と頼むのとは別物で、申請書を出して認められれば、法律上の効果が発生します。
制度は2つ。どちらに当てはまるかで、出す書類も期限も変わります。
換価の猶予——多くの人はこちら
根拠は国税徴収法151条の2。2015年4月に創設された、納税者が自分から申請できる制度です。
条件は「一時に納付することにより、事業の継続または生活の維持を困難にするおそれがあること」。災害や病気といった特別な事情は要りません。単純に「今まとめて払うと生活が回らない」という状態であれば該当します。だから多くの人はこちらです。
ただし期限があります。納期限から6か月以内。これを過ぎると、申請による換価の猶予は使えません。滞納に気づいたら、まずこの6か月を意識してください。
徴収猶予——特定の事情があるとき
根拠は国税通則法46条(地方税は地方税法15条)。次のような事情がある場合に使えます。
- 災害にあった、盗難にあった
- 本人または生計を一にする家族が病気・けがをした
- 事業を廃止した、または休止した
- 事業に著しい損失を受けた
こちらは納期限からの期間制限がありません。事情が生じたら速やかに申請します。該当する事情があるなら、換価の猶予よりこちらを検討してください。
認められると何が起きるか
2つの制度で、効果はほぼ同じです。
- 新たな差し押さえが止まります
- すでにされた差し押さえが解除されることがあります——給与や預金が押さえられている場合、ここが効きます
- 分割で納付できます——原則1年以内、やむを得ない事情があれば延長して最長2年
- 延滞税が軽減されます——猶予期間中の延滞税は一部免除されます
この4つ目は見落とされがちですが、金額として大きい。延滞税は納期限の翌日から発生し、2か月を過ぎると税率が跳ね上がります。猶予が認められた期間はこれが軽くなるので、放置し続けるのとは総額が変わります。
申請の実務——何をどこに出すか
提出先
- 所得税・消費税など国税——所轄の税務署(徴収担当)
- 住民税・固定資産税・自動車税など地方税——市区町村または都道府県の納税課
- 国民健康保険料——市区町村の国保担当課。国保の滞納は別記事にまとめています
いきなり書類を郵送するより、まず窓口か電話で相談してください。猶予制度を使いたい旨を伝えれば、必要な書式を教えてもらえます。書式は各自治体・国税庁のサイトからダウンロードできます。
必要な書類
- 換価の猶予申請書(または納税の猶予申請書)
- 財産収支状況書——収入・支出・財産の状況を書きます
- 猶予を受ける金額が100万円を超える場合は、財産収支状況書に代えて財産目録と収支の明細書
- 担保の提供——原則必要ですが、猶予額100万円以下、期間3か月以内、または担保を提供できる財産がない場合は不要です
担保が必要と聞いて諦める人がいますが、「提供できる財産がない」場合は免除されます。これは非常に重要な点です。担保がないことは、申請しない理由になりません。
書き方で押さえるところ
財産収支状況書では、収入から生活費を引くと、いくらしか残らないかを示します。ここが「一時に納付すると生活の維持が困難」の裏づけになります。
- 収入は手取りで、正確に書く。過大にも過少にも書かない
- 支出は漏れなく挙げる。家賃、光熱費、食費、通信費、保険料、子どもの教育費、他の借金の返済
- 残った額が、そのまま納付できる月額の提案になります。ここで無理な金額を書くと、後で払えなくなって猶予が取り消されます
猶予は認められた後で納付を怠ると取り消され、そこから差し押さえに進みます。だから申請の段階で、確実に払える額を書くことが決定的に重要です。見栄を張る場面ではありません。
申請が通らなかったら
不許可の場合、理由が通知されます。財産があると判断された、資料が不足している、といった理由なら、補正して再申請できます。
また職権による換価の猶予(国税徴収法151条)という別ルートもあります。こちらは納税者の申請ではなく徴収職員の判断によるもので、期限の制限がありません。申請が通らなかった場合でも、窓口で状況を説明し続ける意味はあります。
財産調査で何を見られるのか
「税金 差し押さえ 調査」で調べている方へ。差し押さえの前に、行政は財産調査を行います。何をどこまで見られるのかを、正確に書きます。
調査の範囲
徴収職員には質問検査権があり、裁判所の令状なしに次のことができます。
- 金融機関への照会——預貯金の残高、入出金の履歴。本人の同意は要りません
- 勤務先への照会——給与の額、支払日。ここで勤務先に滞納が知られます
- 生命保険会社への照会——解約返戻金の有無と金額
- 不動産・自動車の登記情報——名義の確認
- 本人への質問、自宅等の捜索——拒否や虚偽の回答には罰則があります
照会に本人の同意は不要で、事前の通知もありません。「勝手に調べられた」と感じるかもしれませんが、法律上の権限に基づくものです。だから財産を隠す、名義を移すといった対応は意味がなく、かえって悪質と判断されます。
何が差し押さえられるか
- 預貯金——最も多い。差押えの通知が届いた時点の残高が押さえられます
- 給与——後述の範囲まで
- 生命保険の解約返戻金——契約が解約されることがあります
- 不動産、自動車、売掛金
給与はいくらまで押さえられるか
全額ではありません。次を差し引いた残りが差押えの対象になります(国税徴収法76条)。
- 源泉所得税、住民税、社会保険料
- 本人の生活費として月10万円
- 生計を一にする親族1人につき月4万5,000円
- 上記の合計を超える部分の20%(体面維持費として)
たとえば手取り25万円・扶養家族1人なら、10万+4万5千=14万5千円が確保され、残り10万5千円の一部が対象になる、という計算です。生活できない額まで持っていかれることはありません。
ただし預貯金は話が違います。いったん口座に入金されると給与としての性質を失うと扱われ、残高がまるごと押さえられることがあります。給与の差押えより預金の差押えのほうが打撃が大きいのは、このためです。
差し押さえられないもの
- 生活に欠くことのできない衣服、寝具、家具、台所用具
- 3か月分の食料と燃料
- 職業に不可欠な器具(一定の範囲)
- 年金や児童手当などの受給権そのもの——ただし口座に振り込まれた後は預金として扱われるため、実務上は押さえられることがあります
最後の点は重要です。年金や手当が振り込まれる口座を差し押さえられると、実質的に生活費が消えます。この場合、「差押えが違法だ」と主張できる余地があるため、すぐに窓口と弁護士に相談してください。放置してはいけない場面です。
「分割の相談」と「猶予の申請」は別物です
ここを混同している人が非常に多いので、独立させて書きます。
| 窓口での分割の相談 | 猶予制度の申請 | |
|---|---|---|
| 法的な位置づけ | 事実上の運用 | 法律に基づく処分 |
| 差し押さえ | 法的には止まらない | 止まる・解除されることも |
| 延滞税 | 通常どおり発生 | 軽減される |
| 手続き | 口頭で足りることが多い | 申請書と財産収支状況書 |
窓口で「分割で払います」と伝えて納得してもらえた場合でも、それは法的に差し押さえを止めるものではありません。担当者が変わったり、約束どおり払えなかったりすれば、そのまま差し押さえに進むことがあります。
だから窓口では、こう伝えてください。
「換価の猶予の申請をしたいので、必要な書類を教えてください」
制度名を出すかどうかで、話が変わります。「払えません」だけでは、督促の手続きが進むだけです。
それでも払えないときの減免・免除
猶予は「待ってもらう」制度で、税額そのものは減りません。額を減らす・免除するのは別の制度です。
国民健康保険料の減免
失業、廃業、収入の大幅減少、災害などで保険料そのものが減額・免除されることがあります。とくに会社都合の離職(特定受給資格者)は、前年の給与所得を30%として計算する軽減が受けられます。これは知らないと使えないので、離職票を持って国保の窓口へ。
住民税の減免
自治体ごとに条例で定められています。生活保護に準ずる状態、失業、著しい収入減、災害などが対象になることがあります。基準も申請期限も自治体によって違うので、必ず自分の市区町村に確認してください。
滞納処分の停止
最後の手段として、国税徴収法153条の「滞納処分の停止」があります。財産がなく、差し押さえるものが何もない、生活が著しく困窮している——といった場合に、徴収そのものが停止されます。停止が3年続くと、納税義務が消滅します。
これは納税者から申請する制度ではなく、行政の判断によるものです。ただし実情を正確に伝えなければ判断されません。生活が立ち行かない状態なら、その事実を窓口で具体的に伝えてください。
税金は自己破産では消えません
重要な点なので明記します。税金・社会保険料は「非免責債権」です。自己破産をしても、これらの支払義務は残ります。
ということは、順番があります。
- まず税金の猶予制度を申請する——差し押さえを止めるのが先
- 次に、他の借金を債務整理する——カードローンなどを整理して、税金を払う余力を作る
逆はできません。税金だけが残るからです。カードローンの返済で税金が払えなくなっているなら、整理すべきはカードローンのほうです。任意整理で月々の返済が下がれば、その分を納税に回せます。
この設計は自分では組みにくいので、相談のときに「税金の滞納もあります」と必ず伝えてください。言わないと、税金を考慮しない返済計画が組まれてしまいます。
よくある質問
- 国税庁「延滞税の計算方法」→ https://www.nta.go.jp/
- 国税庁「滞納となった場合の対応(差し押さえ)」→ https://www.nta.go.jp/
- e-Gov 法令検索「国税徴収法」→ https://laws.e-gov.go.jp/
- ※ 延滞税率は毎年改定されます。最新の税率は国税庁ウェブサイトでご確認ください。